『日経メディカルオンライン』で、本田宏医師が推薦していた『世界がキューバ医療を手本にするわけ』(吉田太郎著)を読んでみました。アメリカの医療制度を批判したマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『シッコ』で、その対比としてキューバの医療を取り上げているというのは聞いたことがありましたが、その詳細についてはほとんど知りませんでした。
この本では近年の歴史も紐解きながら、最も新しい状況が報告されています。良かれ悪しかれ頼りにしていたソ連の崩壊、今も続いているアメリカ主導の経済封鎖、そしてこのところ導入された市場原理経済による格差の進行など、いくつかの大きな試練を経ながらキューバには、文字どおり人間を大切にする医療が根付いてきているようです。
GDPが低いからこそ、それでも高度な医療をめざすという低コストで未来にわたって持続可能な制度をいち早く実現しています。この本のすべてを説明することはできないので、キューバ医療の特徴を端的に表現しているいくつかのメッセージを紹介したいと思います。
まず、イギリスBBCが報道した『世界最高の公共サービス・シリーズ』という番組での紹介です。「ブレア(イギリス首相・当時)が、真剣に医療問題に対処するには、カストロの医療制度を視察するべきではないだろうか。お怒りのメールを送られる方もいるかもしれない。だが、キューバの外科、診療所、そして病院への高評価については、ほとんど議論の余地がない。2001年、イギリス下院の健康特別委員会はキューバを訪れ、『予防重視とコミュニティ医療に基づく医療制度』を絶賛するリポートを出している。キューバは貧しいかもしれないが、不健康ではない。もし、証拠を手にしたいならば、その健康指標を見てみるがいい。平均寿命と乳児死亡率は米国のそれとほとんど同じだし、医師・患者比にあっては、どの西欧諸国との比較にも耐える。だが、一人当たりの年間総医療費は、251ドルでイギリスの10分の1なのだ」。
続いて、イギリスから毎年、医療従事者の視察団を派遣しているパトリック・ピエト二ロ博士は、「とにかく人々はGDPで貧国を判断しがちです。GDPではキューバはかなり貧しい。ですが、人的資源についてはとても豊かな国なのです。キューバのファミリー・ドクターが受け持つ患者数が300人だと耳にすると、イギリスの医師たちは驚きます。わが国ではその比率は1800人なのです」と言っています。いったい日本では、何人なのでしょう。
次に、パキスタン北西部地震で治療活動を行い、さらにジャワ島へ救援に向かおうとしていたキューバの「国境なき医師団」のアルレニス・パロッソ医師は、日本に立ち寄った際、「キューバは日本と同じく高齢化が進んでいますが、高齢化は誇りに思っています。開発途上国でも80歳に届こうとしているのです。また国内で格差が進んでいるとの批判もありますが、私はお金のために医師になったのではありません。お金が人間よりも価値を持つ時代になったら残念ですが、そうはならないと思います。パキスタンでは10キロも歩きましたが、お年寄りに喜んでもらえ、子どもたちの笑顔が戻ることをうれしく思いました。私は病気ではなく、人間を診ているのです。生まれ変わっても私は医師になろうと思います」と講演しています。高齢化が誇り。「少子・高齢化」といって高齢化を社会の問題として捉えている国と違うようです。そして、今まさにお金が人間よりも価値を持つ時代になろうとしているのではないでしょか。
最後に、驚くことにキューバでは、バイオテクノロジーの分野でも世界の先端を走っているようです。その最先端にあるエベル・ビオテクのカルロス・マヌエル博士は、「私たちは多国籍企業とは本質的に異なります。なぜなら、私たちは国家と同じ旗の下で働き、金銭的な目標よりも、むしろ社会的で人間的な目標を分かちあっているからです。ワクチン開発の目的はお金を稼ぐのではなく、命を落とす子どもたちを減らすことにあります。もちろん、タダでワクチンをさしあげることはできませんし、売らなければなりませんが、お金はバイテク産業の目的ではなく、あくまでも手段なのです」と語っています。お金に対しては、本来そうあるべきでしょう。建前と本音を一致させた生き方ができることは素晴らしい。
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