神経突起の過剰な刈り込みを制御するタンパク質
アルツハイマー病は、βアミロイドというタンパク質が脳内に蓄積して、神経細胞が損傷を受けるために起こると思っていましたが、βアミロイドが蓄積するから発症するのか、あるいは病気の結果βアミロイドが沈着するのか、まだ結論が得られていないようです。
βーアミロイドの問題とは、アプローチの仕方が違いように思えますが、その原因を解明する新たな研究結果のひとつとして、『東京大学 大学院 理学系研究科 理学部』のサイトに「脳の配線ミスを生後の発達期に修正する新たなメカニズムの発見」(2009年6月29日)というプレスリリースが発表されていました。
ヒトの脳では、一千億個以上もの神経細胞が互いに神経突起を伸ばし、複雑かつ精密なネットワークを形成しています。このようなネットワークがどのようにして作られるかは、生物学における大きな謎の一つです。近年、脳の発達期に観察される神経突起の“刈り込み”と呼ばれる現象が、大きな注目を浴びるようになりました。ヒトなどの高等動物では、生まれた直後の脳は未成熟で、個々の神経細胞は正しい相手以外とも多くの神経接続を形成しています。ところが成長が進むと、不要な神経突起は排除されていきます。この “刈り込み”は、機能的な神経回路を構築するための重要な過程であると考えられます。しかしながら、“刈り込み”に関わる遺伝子やタンパク質はあまり知られておらず、この現象が分子レベルでどのように制御されているかはほとんど不明でした。
“刈り込み”のメカニズムの解明は、臨床応用の観点からも重要です。“刈り込み”が適切に制御されないことが、病気の発症につながり得るからです。その最たる例を、アルツハイマー病やパーキンソン病などに代表される神経変性疾患に見ることができます。これらの病気では、本来起こるべきでない時期や部位で神経突起の削除が起きており、これが脳機能低下の一因となると考えられています。また、アルコールの過剰な摂取や肥満も神経突起の異常な削除を引き起こすことが知られています。正常な脳の発達過程における“刈り込み”の際に、不要な神経突起だけが削除され、必要な神経突起は維持されるメカニズムを解明することで、これらの疾患の治療法の開発にもつながると期待されます。http://www.s.u-tokyo.ac.jp/press/press-2009-14.html
今回の研究では、「刈り込み」によって神経の突起を切り離す「MBR-1」というタンパク質と、それを制御する「Wnt」というタンパク質を見つけたらしい。個体の発達過程で、不要になった細胞が自滅するアポトーシスという現象が起こりますが、神経の接続でも、同じような経過をたどるようです。
アルツハイマー病の原因が、神経突起の過剰な「刈り込み」だとすると、βアミロイドの蓄積は、原因ではなく結果なのかもしれません。パーキンソン病も、ドーパミンが不足するのは、神経突起の接続そのものが少なくなった結果でしょうか。脳の問題は、まだまだ、奥が深いようです。
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